歴代XJR1300の卓越した運動性能を足もとから支えるオーリンス製のリアサスペンション。オーリンスブランドの象徴とも言える華やかなゴールドの外観には「最良の素材と設計、そして最高の精度での加工」を標榜する同社のブランドが込められている。その信頼の品質と性能はサーキットで過ごした膨大な時間と100を超える世界タイトルが証明していると言えるだろう。ストックホルム郊外、オーリンスの本拠地であるこの地に、職人集団を率いるケント・オーリン氏とXJR1300のリアサスペンションの実験を担当したアンダース・アンダーソン氏を訪ねた。
スウェーデンは高品質な工業製品の生産国として有名だ。人々は、働くことは人間の能力を発揮するためとの思いが強く、それが高品質を生み出す源と言われている。そのスウェーデンの首都ストックホルム郊外にあるのがオーリンス社。従業員は約200名。社員1人1人が、高い志を持って高性能なサスペンション作りに取り組んでいる。高性能に加えてどんなに小さなキズさえ見逃さない徹底した品質管理は広く知られている。
スウェーデン北部のキルナは、良質な鉄鉱石の産地。硬質かつ高品質なスウェーデン鋼は世界的にも有名だが、オーリンスではスプリングや減衰力を発生させるシムにスウェーデン鋼を使用している。現在約1,000種類のサスペンションを生産し、年間ではステアリングダンパー、ATVやスノーモビル用を含めると膨大な数になる。
オーリンス社の創業は1976年。創立者であり今なお第一線のサスペンションエンジニアとしてオーリンスをリードするケント・オーリンは、父が精密医療機器の製造に携わっていたこともあり幼い頃から機械いじりが大好きだった。父が使っていた旋盤をおもちゃ代わりに育ったオーリン。しかし父から授けられたものは旋盤だけではない。
「自分ひとりで解決できないことは、人に助けを求めよ」「分からないことは本から学べ」。これらの知恵はオーリンの生き様の礎となり、今もオーリンス社はこの方針をもとに経営されている。12歳の時に50ccマシンでエンデューロに参加したオーリン。1974年ハスクバーナの250ccでモトクロスに出場していた25歳の彼は、サスペンション性能の可能性に思いを巡らせていた。そしてある日「自分でサスペンションを作ろう」と決断。機械いじりが好きで研究熱心なオーリンの心に火がついたのは言うまでもない。サスペンションの品質を徹底的に分析すると改良すべきポイントが幾つも見つかった。
「アイデアを実現させてくれるのは、この人しかいない」。オーリンは父とともに、父のワークショップでサスペンションの開発を開始。当初はモトクロス仲間のサスペンションを修理する程度の規模だったが、評判が評判を呼びファクトリーチームからの注文を受けるまでになったのである。モータースポーツでは、サスペンションの存在は極めて大きいもの。そこにオーリンの才能、研究熱心さ、スウェーデンという国ならではの高品質な原材料が加わって、オーリンスのサスペンションは「勝てるサス」として瞬く間に名声を得ていった。
モトクロス世界選手権500ccでのハカン・カルキビストのタイトル獲得(1983年)をはじめ戦績の数々はやがて伝説となっていった。レース活動では創業から30年を経た今もなお二輪、四輪とカテゴリーを問わず広く信頼されるブランドとなっているのはご存知の通りだ。
しかしオーリンは、「技術的に優れていることだけが成功を担っているのではない」と。「研究開発に携わるエンジニアは約40人。彼らは自由にその才能を発揮し、創意に富んだアイデアを提供してくれる。会社の利益のほとんどは、研究開発に投資する。つまり我々は常に未来を考えている。その『未来』とは私たち独自のもの。30年にわたるレース活動、繰り返してきたテストと開発、世界のサーキットで過ごした長い時間、100を超えるタイトル、そして非常に優秀なスタッフたち。これらのすべてがオーリンス社の未来を支えているのだ」。
質の高いサスペンションを実現するためには当然技術力による裏付けが必要だ。しかしオーリンスブランドが広く支持されるのは、スタッフが「世界最高のサスペンション作り」の未来に向けて高いモチベーションを持ち続けていることとオーリンは言う。